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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)4626号 判決 1967年1月28日

原告 京浜急行電鉄株式会社

被告 国

訴訟代理人 鎌田泰輝 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、昭和二〇年九月羽田空港に進駐した連合国軍が東京急行電鉄株式会社所有の地方鉄道穴守績の海老取川橋梁から終点穴守駅までの七六五米にわたる軌道、駅舎その他一切の鉄道施設を実力によつて撤去しその跡地を接収し軍事用目的に使用していたが、昭和二七年接収が解除され原告に返還されたことは、当事者間に争いがなく原告が昭和二三年六月一日東京急行電鉄株式会社から右穴守線の地方鉄道および前記収去および接収によつて被告に対し生じた一切の損失補償請求権の譲渡を受けたことは、被告が明らかに争わないから自白したものとみなす。

二、連合国軍最高司令官が昭和二〇年九月一一日日本政府に対し同月二二日までに右鉄道施設を含む羽田空港内の物的施設の撤去を指令したことは、当事者間に争いがなく、<証拠省略>を総合すれば、右会社が同月二〇日頃蒲田区役所を通じて中央終戦連絡事務局から二四時間内に前記鉄道施設一切の撤去を命令されたこと、同会社は一部自力で撤去したがその能力がなかつたため大部分の施設は連合国軍の兵力によつて撤去されたことが記められる。右事実によれば、右会社が、連合軍の指令による被告の命令に従つて連合軍の兵力の援助を受けて右物件の撤去をなしたとみられる。

三、原告は「右物件の撤去による損失金三九一九万七〇六円五〇銭、昭和二〇年一〇月から昭和二七年六月までの得べかりし営業収益金四六一万二三〇四円について被告は補償する義務がある。補償額の算定は接収が解除された昭和二七年七月一日を基準とすべきである。これから、原告が右接収中の借地料として被告から受領した金一六万六三一三円および被告が損失補償として供託した金一九五万四二八二円を控除した金四一六八万二四一四円の支払を求める。」と主張する。ところで、昭和二〇年九月当時連合軍の指令により日本政府が発する物件の撤去連合軍の接収によつて生ずる損害の補償について、これを被告が賠償すべき旨を定めた法令が存していないのであつて、この補償責任の有無を処何に解すべきかは大いに争いのあるところである。しかし、この点はしばらくおき、仮りに補償義務があるとしても損害賠償の一般法理にしたがい施設が撤去された昭和二〇年九月当時を基準としてその損失額を算定すべきものであり、また、原告主張のとおり昭和二〇年勅令第六三六号土地工作物使用令の適用があると解してもこの損失額算定時期については右と同一に解すべきである。そして公文書であると認められる<証拠省略>を総合すれば、昭和二〇年九月前記物件の撤去によつて生じた物件の損失および昭和二七年六月三〇日までの得べかりし営業利益は、被告が自認しかつ供託している金一九五万四二八二円であると認めるのが相当であり、他に損失を認めるべき証拠はない。そして原告が請求する金員は右主張のとおり被告において供託している金一、九五万四、二八二円および原告が被告より本件接収中の借地料として受領した金一六万六、三一三円八一銭を控除した金四一、六八万二、四一四円(円未満切捨)およびこれに対する遅延損害金であるから、原告の本訴請求は理由がない。

よつて、原告の請求を棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺一雄 宮本増 広田富男)

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